今年は「近況」に関する更新がほとんどありませんでした。なにやら仕事の成果に一区切りを設けるのが難しく、子育てと締切に追われながらあれこれやっているうちに、もう一年がすぎようとしている、といったところです。そこで遅ればせながらですが、いくつか今年の仕事を振り返りつつ、紹介させてもらいたいと思います。
・第一次大戦関連:
今年は第一次大戦開戦から百周年の年でした。当時の精神医学の言説の動きを追った論考を、論集 『現代の起点 第一次世界大戦』第二巻(岩波書店)に寄せております。戦争神経症などについての議論を踏まえ、第一次大戦が、「精神療法」の二度目の誕生の土壌となっていく様について論じております。しかしやはり「現代の起点」ということもあり、いちばんの関心は、ここで生まれたある種のモデル、枠組みが、いかにその後の時代を、今日に至るまで、既定する条件となったか、という点にあり、そのあたりは今後もおいおい調査したいと思っています。
ちなみに、“いまこの時代に”第一次大戦を真面目に受けとるとはどういうことだろうか、ということを、歴史研究のことはさておき、好きに書いたエッセイを『図書新聞』紙に掲載していただきました。
・J.ランシエール『平等の方法』:
翻訳に参加した現代フランスの哲学者ジャック・ランシエールのインタビュー集『平等の方法』(航
思社)が秋に公刊されております。自伝的要素に始まり、それぞれの著作の細かな論点やそれぞれの概念の深みにまで迫る質・量ともに充実したインタビューです。また、あの構造主義の時代から現代までを、ひとつのフランスの哲学がどのように生き延びてきたのかという、フランス現代思想の連続性を示す事例としても興味深く読めるように思います。
・書評「H.ボーシェーヌ『精神病理学の歴史』」:
『図書新聞』3173号に今年出版された『精神病理学の歴史』の書評を執筆しました。こういう本に興味を持つひとというのはそもそも少ないのかなという気がし
ますが、しかし、前世紀後半から脳神経科学的なものの見方がかなり逞しく発展しているこの現状を踏まえると、一種の反動として「精神病理学」の人気がまた高まる、という可
能性も考えられるのかもしれないですね。ただ、そのためには支えとなる人文学がしっかりしてなくちゃ、にっちもさっちもいかないわけですが。
ちなみに、「人文学がしっかりしなくちゃ」という話で言うと、今年は、そうした思いから「精神分析と倫理」研究会を始めました。既に二回実施しましたが、今後も、なるべくマシなこと考えて、マシなことやりたいと思っております。
続く
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